医療法人化はいつすべき?メリット・デメリットを税理士が解説

医療法人化はいつすべき?メリット・デメリットを税理士が徹底解説
渋谷区の税理士、畑間です。
今回は、医科・歯科を問わず開業医の皆様からよくご相談をいただく「医療法人化」について解説します。「そろそろ法人化した方がいいのだろうか」「メリットは聞くけれど、デメリットもあるのでは」と感じている院長先生に向けて、法人化のメリット・デメリット、そして検討すべきタイミングの目安を、できるだけ具体的な数字を交えてご紹介します。
この記事を読み終える頃には、
「自院は医療法人化を検討すべきタイミングなのか」
をご自身で判断できるようになります。
目次
そもそも医療法人化とは?個人開業医との違い
医療法人化とは、個人で運営しているクリニックを「医療法人」という法人格に切り替えることです。株式会社の設立と異なり、都道府県知事の認可が必要な許可制であり、原則として利益(剰余金)を出資者に分配できない「非営利法人」である点が大きな特徴です。
また、平成19年(2007年)の医療法改正以降に新しく設立される医療法人は、原則として「持分なし医療法人(基金拠出型医療法人)」となります。出資した分の財産権を主張できない代わりに、相続税・贈与税のリスクを抑えられる仕組みになっています。
医療法人化で得られる6つのメリット
- 節税効果:個人の所得税・住民税は最大約55%の累進課税ですが、法人税等の実効税率はおおむね23〜34%程度。所得が一定水準を超えると、医療法人化によって税負担を抑えられます。
- 事業拡大がしやすい:個人開業医は原則1施設のみですが、医療法人であれば分院の開設や介護事業等への展開が可能になります。
- 資金調達力の向上:法人としての決算書が整うことで、金融機関からの信用力が向上。代々木エリアでは設備投資の融資相談が増加しています。
- 採用力の向上:福利厚生・退職金制度を整えやすく、優秀なスタッフの採用・定着につながります
- 退職金の活用:個人事業では認められない院長自身の退職金を、法法人から支給する形で準備できます。
- 事業承継のしやすさ:持分なし医療法人であれば、相続税・贈与税の負担を抑えつつ、法人格を維持したまま次の世代へ引き継ぎやすくなります
見落としがちな3つのデメリット・注意点
1. 設立手続きに時間がかかる
医療法人の設立は株式会社のような登記だけでは完結せず、都道府県への設立認可申請が必要です。東京都の場合、申請の受付は例年3月・8月頃の年2回に限られており、事前相談から開設まで半年〜10ヶ月程度かかるのが一般的です。「思い立ってすぐ」というわけにはいかない点に注意が必要です。
2. 社会保険への加入が原則義務になる
個人クリニックでは常勤スタッフが5人未満であれば社会保険が任意適用のケースもありますが、医療法人になると理事長本人を含め、原則として社会保険への加入が義務付けられます。スタッフ1人あたり月額7万円台後半〜8万円程度の法人負担増につながることもあり、資金繰りへの影響を事前に試算しておく必要があります。
3. 資産を自由に使いにくくなる
法人の財産は法人のものであり、個人の財布と明確に区分されます。役員報酬や交際費(法人の場合は損金算入に上限があります)など、あらかじめ決められたルールの範囲でしか資金を動かせなくなる点は、個人事業主時代との大きな違いです。
4. 措置法26条の概算経費が使えなくなる
個人開業医(医科・歯科いずれも)には、社会保険診療報酬が年5,000万円以下かつ医業・歯科医業収入が7,000万円以下の場合に、実際の経費計算に代えて概算経費(収入区分に応じておおむね57〜72%)を使える「措置法26条」の特例があります。医療法人化するとこの特例は使えなくなり、実額での経費計算に一本化されます。
個人開業医と医療法人、何が変わる?
| 項目 | 個人開業医 | 医療法人 |
|---|---|---|
| 税率のイメージ | 所得税+住民税で最大約55%(累進課税) | 法人税等の実効税率はおおむね23~34%程度 |
| 複数施設の展開 | 原則1施設のみ | 分院展開・介護事業等への展開が可能 |
| 退職金 | 院長自身の退職金は経費にできない | 理事長・親族役員への退職金支給が可能 |
| 事業承継 | 開設者の死亡等で個人事業として一旦廃業扱い | 持分なし医療法人なら法人格を維持したまま承継しやすい |
| 社会保険 | スタッフ5人未満は任意適用も可 | 理事長を含め社会保険への加入が原則義務 |
| 措置法26条(概算経費) | 社保診療報酬5,000万円以下等の要件で適用可 | 適用不可(実額経費のみ) |
医療法人化を検討すべき5つのタイミング
- 年間所得(利益)が1,800万円を超えたとき:個人の所得税率が法人税等の実効税率を上回り始める水準です
- 社会保険診療報酬が5,000万円超、または医業収入全体が7,000万円を超えたとき:措置法26条の概算経費が使えなくなるラインです
- 開業から6〜7年前後、医療機器の減価償却がひと段落したとき:経営が安定し、法人化による節税メリットを実感しやすい時期です
- 分院展開や新しい診療科の追加など、事業拡大を考え始めたとき
- 将来の事業承継(子どもへの引き継ぎや第三者承継)を見据え始めたとき
これらはあくまで一般的な目安です。実際にはご自身の所得水準、経費構造、将来の事業計画によって最適なタイミングは変わりますので、複数年分の数字をもとにシミュレーションした上で判断することをおすすめします。
医科・歯科で共通する点、異なる点
医療法人化のメリット・デメリットの骨格は、医科・歯科で大きくは変わりません。一方で、措置法26条の概算経費特例については、自由診療(自費診療)の比率が高い歯科医院では、そもそも社会保険診療報酬に対する特例の効果が相対的に小さくなるケースがあります。歯科医院の場合は、自費診療も含めた収益構造全体を踏まえたシミュレーションがより重要になります。
医療法人化の手続きの流れとスケジュール(東京都の場合)
| 時期の目安 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 設立の半年~1年前 | 事業計画・資金計画の策定、税理士への相談 | 拠出額や役員構成の検討もこの段階で |
| 設立の3~4ヶ月前 | 東京都への事前相談・設立認可申請書類の準備 | 東京都は例年3月・8月頃の年2回受付 |
| 申請~認可 | 都道府県の審査(医療審議会等)を経て認可 | 申請から開設まで半年~10ヶ月程度が目安 |
| 認可後 | 設立登記、個人からの資産・診療科目の引き継ぎ | 保健所・厚生局等への各種届出も必要 |
まとめ:判断に迷ったら、まずは数字でシミュレーションを
医療法人化は、節税・事業拡大・承継のしやすさなど多くのメリットがある一方、社会保険負担の増加や手続きの煩雑さといったデメリットもあります。
重要なのは、 「自院の数字でシミュレーションすること」 です。
渋谷区の医科・歯科クリニックの先生方からは、 「法人化した方がいいのかどうか、数字で判断したい」 というご相談を多くいただきます。
畑間税理士事務所では、 渋谷区を中心に全国の医科・歯科クリニックの皆様からの医療法人化に関するご相談を随時お受けしています。「うちはそろそろ法人化した方がいいのか」という段階でも構いませんので、まずはお気軽にご相談ください。
執筆者紹介

代表税理士 畑間 彬宏
畑間税理士事務所 代表
大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。


