フリーランスが法人化する一番のメリットは「所得分散」|仕組みを税理士がわかりやすく解説
法人化の一番のメリットは「所得分散」?初心者にもわかる節税の仕組み
渋谷区代々木の税理士、畑間です。
「法人化すると節税になる」という話は、フリーランス・個人事業主の方であれば一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。法人化にはさまざまなメリットがありますが、節税効果という点で最も影響が大きいのが「所得分散」です。ただ、この「所得分散」という言葉、初めて聞くと具体的に何をどう分けているのか、なぜそれで税金が安くなるのかがイメージしづらいテーマでもあります。今回は、所得分散の仕組みを中心に、できるだけかみ砕いて解説していきます。あわせて、所得分散以外の法人化のメリットや、見落としがちなコスト面についても簡単に触れます。

法人化の一番のメリットは「所得を2つに分ける」こと
個人事業主のままだと、売上から必要経費を差し引いた「事業所得」がまるごと自分一人の所得になります。これに対して法人化すると、会社の利益と、そこから自分自身に支払う「役員報酬(給与)」とに分けることができるようになります。つまり、これまで1つだった所得の入れ物を、「会社の利益」と「個人の給与」という2つの入れ物に分けられるようになる、というのが法人化の出発点です。この「2つに分ける」という発想そのものが、次に説明する節税効果の土台になります。
なぜ「分ける」と節税になるのか?所得分散が効く2つの理由
所得を2つに分けるだけでは、本来は税負担が変わらないはずだと感じるかもしれません。所得分散で税負担が軽くなる理由は、大きく分けて2つあります。1つは「超過累進課税の高い税率帯を避けられること」、もう1つは「給与所得控除という上乗せの控除が使えること」です。順番に見ていきましょう。
理由①:超過累進課税の高い税率帯を避けられる
所得税には「超過累進課税」という仕組みがあり、所得が多くなるほど段階的に税率が上がっていきます(令和8年分で5%から45%まで7段階)。個人事業主のまま所得がすべて1人に集中すると、その所得全体がまとめて高い税率帯まで押し上げられてしまいます。法人化して所得を「法人の利益」と「個人の給与」に分けると、法人の利益分は法人税(中小法人であれば所得800万円以下の部分に軽減税率が適用され、実効税率でもおよそ22%程度)という、個人の所得税ほど急には上がらない税率で課税されます。また、個人が受け取る給与部分も、全体を1人で受け取るときより金額が小さくなるため、より低い税率帯にとどまりやすくなります。つまり、所得をひとまとめにして高い税率帯まで押し上げてしまうのではなく、「法人の税率表」と「個人の税率表」という2つの表に分散させ、それぞれを低い税率帯に収めやすくする、というのが1つ目の理由です。この効果は、後述するとおり所得が大きくなるほど効いてきます。
理由②:給与所得控除という、上乗せの控除が使えるようになる
2つ目の理由が「給与所得控除」です。個人事業主が所得を計算する際は、売上から実際に使った経費(仕入れ、家賃、交通費など)を差し引きます。これはあくまで「実際に支払った金額」が対象です。一方、会社員やあなた自身が会社から役員報酬を受け取る場合は、実際にいくら使ったかにかかわらず、収入金額に応じて一定の金額を自動的に差し引ける「給与所得控除」という仕組みが使えます。これは、スーツ代や書籍代など、給与所得者にも一定の必要経費相当がかかっているはずだという考え方に基づいた、いわば「みなし経費」です。実際の支出額を1円も証明しなくても、決まった計算式で控除額が決まる点が、事業所得の必要経費と根本的に異なります。
給与所得控除額の目安
給与所得控除額は、収入金額に応じて次のように計算されます(令和8年分)。
| 給与収入の区分 | 給与所得控除額の計算式(令和8年分) |
|---|---|
| 220万円以下 | 74万円(定額) |
| 220万円超~360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
| 360万円超~660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
| 660万円超~850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
例えば役員報酬として年400万円を受け取る場合、400万円×20%+44万円=124万円が給与所得控除額になります。つまり、400万円受け取っても、税金の計算上は124万円を差し引いた276万円だけが所得として扱われる、ということです。
2つの効果が重なって、所得分散の節税効果が生まれる
個人事業主のままだと、必要経費を引いた後の事業所得がまるごと課税対象になり、そこに給与所得控除のような「みなし経費」は追加で使えません。ところが法人化して事業の利益の一部を役員報酬として自分に支払うと、会社側の利益からはその役員報酬分が経費として差し引かれ、受け取った本人の側では、今度は給与所得控除という別の控除を新たに使うことができます。同じ800万円という利益であっても、法人化して「会社の利益」と「自分の給与」に分けることで、①それぞれが低い税率帯に収まりやすくなり、②給与所得控除という、個人事業主のときには存在しなかった控除も追加で使えるようになります。この2つの効果が重なることで、「所得分散によって税負担が軽くなる」という現象が生まれるのです。

具体例で見る節税効果(簡易シミュレーション)
言葉で説明してもイメージがつきにくいと思いますので、具体的な数字で比較してみます。年間の利益(所得)が800万円のケースを例に、個人事業主のままの場合と、法人化して役員報酬400万円・法人の利益400万円に分けた場合とを比較します。
| 項目 | 個人事業主のまま | 法人化した場合 |
|---|---|---|
| 所得の内訳 | 事業所得800万円 | 役員報酬400万円+法人の利益400万円 |
| 法人側の税負担 | ― | 法人税等 約88万円 |
| 個人側の税負担 | 所得税・住民税 約180万円 | 所得税・住民税 約26万円 |
| 合計の税負担 | 約180万円 | 約114万円 |
個人事業主のまま800万円の所得を得た場合、基礎控除を差し引いた課税所得に対して所得税・住民税を合わせておよそ180万円の税負担になります。一方、法人化して800万円を役員報酬400万円・法人の利益400万円に分けた場合、法人側の利益400万円には中小法人の軽減税率が適用された実効税率(概算22%程度)で法人税等がおよそ88万円かかりますが、個人側で受け取る役員報酬400万円は、給与所得控除124万円と基礎控除(令和8年分の特例適用で104万円)を差し引いた課税所得172万円に対する所得税・住民税で、およそ26万円にとどまります。合計すると、法人化した場合はおよそ114万円となり、個人事業主のままの場合と比べておよそ66万円の差が生まれる計算になります。
所得が増えるほど、節税効果は大きくなる
所得分散の効果は、所得水準が上がるほど大きくなる傾向があります。個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がる超過累進課税である一方、法人税は所得800万円を境に税率の上がり方が緩やかになるためです。同じ考え方(所得をおおむね半分ずつ役員報酬と法人の利益に分ける)で、所得800万円に加えて1,500万円・2,500万円のケースも試算してみます。
| 所得水準 | 個人事業主のまま | 法人化した場合 | 差額(節税額) |
|---|---|---|---|
| 800万円 | 約180万円 | 約114万円 | 約66万円 |
| 1,500万円 | 約465万円 | 約272万円 | 約193万円 |
| 2,500万円 | 約966万円 | 約598万円 | 約369万円 |
所得800万円では差額はおよそ66万円でしたが、1,500万円ではおよそ193万円、2,500万円ではおよそ369万円まで広がります。個人事業主のまま所得が増えると、所得税率は最大45%まで上がり、住民税も合わせるとおよそ55%が税金として持っていかれる計算になります。これに対して法人化して所得を分散させれば、法人側は800万円を超えた部分でも実効税率がおよそ30%台にとどまり、個人側も給与所得控除によって課税対象となる所得そのものが圧縮されるため、所得が大きくなるほど「分けておいてよかった」という差が開いていきます。
※このシミュレーションは、社会保険料控除や配偶者控除など基礎控除以外の所得控除、個人事業税、法人住民税均等割などを考慮しない簡易的なものです。実際の税負担は所得の内訳や家族構成、事業の形態によって大きく変わりますので、あくまで「所得分散でなぜ税負担が変わるのか」「所得が増えるほど効果が大きくなること」というイメージをつかむための目安としてご覧ください。また、基礎控除額は令和7年度税制改正により令和8・9年分のみ上乗せ特例が設けられており、令和10年分以降は控除額の区分が変わる予定です。正確な試算については、個別にご相談ください。
所得分散以外にも、法人化にはこんなメリットがある
節税効果としては所得分散が中心ですが、法人化には他にも見逃せないメリットがあります。
赤字の繰越期間が個人3年→法人10年に延びる
青色申告をしている場合、個人事業主は赤字(純損失)を3年間繰り越して将来の黒字と相殺できますが、法人はこれが10年間に延長されます。開業直後で赤字が出やすい時期がある事業や、設備投資がかさむ事業では、長期的な税負担の平準化につながります。
決算日を自由に選べる
個人事業主の事業年度は1月1日から12月31日までと固定されていますが、法人は決算日を自由に設定できます。繁忙期を避けて決算・申告作業を行えるようにしたり、資金繰りの都合に合わせて決算月を選んだりできる点は、実務上のメリットとして意外と見落とされがちです。
自分自身の退職金を経費にできる
個人事業主は、自分自身に「退職金」を支払うという概念がありません。法人化すれば、将来自分が退任する際の退職金を法人の損金にすることができ、退職所得は給与所得と比べて税制上大きく優遇されています。計画的に準備すれば、長期的な節税と老後資金の確保を両立できます。
社会的信用が上がり、取引・資金調達の選択肢が広がる
取引先によっては、個人事業主とは契約せず法人としか取引しない、という会社もあります。また、金融機関からの融資審査においても、法人の方が有利に働く場面が多く見られます。事業を拡大していく段階では、この信用面のメリットが実務上大きな意味を持つこともあります。
消費税の免税期間(ただしインボイス制度で実質的な影響に注意)
新たに法人を設立すると、資本金1,000万円未満であることなど一定の条件のもとで、設立当初の最大2期間、消費税の免税事業者になれる場合があります。ただし、2023年10月に始まったインボイス制度により、取引先が仕入税額控除を受けるためには適格請求書発行事業者(課税事業者)であることを求められる場面が増えており、免税事業者のままでいることのメリットは以前より小さくなっています。取引先の状況次第では、あえて課税事業者を選択したほうがよいケースもあるため、法人化のタイミングとあわせて検討する必要があります。
法人化にはコストや注意点もある
メリットが大きい一方で、法人化には相応のコストも伴います。設立時には登録免許税・定款認証費用などでおよそ20万円前後の初期費用がかかり、赤字であっても法人住民税の均等割(東京23区の場合、目安として年7万円程度)は必ず発生します。また、法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則義務となり、役員報酬に応じた社会保険料の会社負担が新たに生じます。さらに、法人の決算・申告は個人の確定申告よりも複雑になり、税理士への依頼料も含めた事務コストが増える点も踏まえておく必要があります。節税効果とこれらのコストを比較したうえで、法人化に踏み切るタイミングを見極めることが大切です。
まとめ:所得分散の仕組みを理解したうえで、タイミングを見極める
- 法人化の一番のメリットは「所得分散」による節税。事業の利益を「会社の利益」と「自分の給与(役員報酬)」に分けられるようになることが出発点
- 給与として受け取る部分には「給与所得控除」という、個人事業主のときには使えなかった控除が新たに使えるようになる。これが所得分散節税のカラクリ
- 簡易シミュレーションでは、所得800万円でおよそ66万円、1,500万円でおよそ193万円、2,500万円でおよそ369万円の税負担の差が生まれる。所得が大きいほど所得分散の節税効果は大きくなる(あくまで簡易的な目安)
- 所得分散以外にも、赤字の繰越期間の延長、決算日の自由な選択、退職金の経費化、社会的信用の向上などのメリットがある
- 一方で、設立費用、赤字でも発生する均等割、社会保険料の会社負担、事務コストの増加など、見落としがちなコストもある
所得分散による節税効果がどの程度になるか、法人化のタイミングとして今が適切かどうかは、現在の所得水準や事業の状況によって大きく変わります。具体的な試算については、実行に移す前に一度畑間税理事務所にご相談ください。
執筆者紹介

代表税理士 畑間 彬宏
畑間税理士事務所 代表
大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。




