【役員報酬解説3】役員賞与を経費にする方法|事前確定届出給与の届出ルール

役員に賞与を出したいなら知っておきたい「事前確定届出給与」

渋谷区代々木の税理士、畑間です。

「今期は業績が良かったから、役員賞与を出したい」——経営者であれば一度は考えることではないでしょうか。しかし、役員に対する賞与は、何も手続きをしなければ原則として経費(損金)にできません。例外的に経費として認めてもらうためには、「事前確定届出給与」という制度を使い、支給前にあらかじめ税務署へ届け出ておく必要があります。今回は、この届出のルールと、実務でもっとも注意すべき落とし穴について解説します。

事前確定届出給与とは何か

事前確定届出給与とは、あらかじめ支給する時期と金額を確定させ、税務署に届け出たとおりに支給する給与のことです。支給額や時期があらかじめ決まっており、決算状況を見てから金額を調整するような「お手盛り」の余地がないことから、例外的に経費として認められています。

届出の対象には、金銭による支給のほか、株式や新株予約権による支給もありますが、株式等による支給は市場価格のある株式が前提となるため、実質的に上場企業(とその子会社)向けの制度です。中小企業のオーナー社長が役員賞与を出す場合は、金銭による支給が対象になると考えておけばよいでしょう。

なお、大半の中小企業は「同族会社」に該当します。同族会社が、毎月給与を受け取っている役員に賞与を支給する場合は、原則として届出が必須です。「非常勤役員だから届出は不要」と誤解されるケースもありますが、毎月報酬を受け取っている役員への賞与は、同族会社である以上、届出の対象になると理解しておいてください。

届出の期限:原則は「決議から1か月以内」

届出の期限は、次のように定められています。

区分 届出期限
原則 株主総会などで決議した日(職務執行開始日より後ならその開始日)から1か月を経過する日
新設法人の場合 設立の日から2か月を経過する日
臨時改定事由による場合 その事由が生じた日から1か月を経過する日と、上記いずれか遅い日

たとえば3月決算の会社が6月25日の定時株主総会で役員賞与の支給を決議した場合、届出期限は決議から1か月後の7月25日となります。決算後、役員報酬の改定とあわせて賞与の支給も決めることが多いため、このタイミングを逃さないよう注意が必要です。

届出書には、対象となる役員の氏名・役職名、支給時期、各支給時期における支給額などを記載します。届け出た内容は、後から自由に変更できるものではなく、変更する場合も別途「変更届出書」を期限内に提出する必要があります。

【最重要】届出どおりに支払わないと、賞与が全額経費にならない

事前確定届出給与でもっとも注意すべきなのが、この「全額アウト」のルールです。届出をした金額・時期と、実際に支給した金額・時期が少しでも異なると、その差額だけでなく、支給額の「全額」が経費として認められなくなります。

ケース 結果 経費にできる金額
届出額100万円→250万円を支給(増額) 届出どおりでない 0円(250万円全額が経費にならない)
届出額250万円→100万円を支給(減額) 届出どおりでない 0円(100万円全額が経費にならない)
7月・12月の2回届出→12月分だけ減額して支給 職務執行期間全体で届出どおりでないと判定 7月分も含めて合計が経費にならない

たとえば、12月に100万円を支給すると届け出ていたにもかかわらず、業績が良かったからと期中に150万円上乗せして250万円を支給した場合、増額分の150万円だけでなく、支給した250万円全額が経費にできません。逆に、資金繰りが厳しくなり、届出額250万円のところを100万円に減らして支給した場合も、その100万円全額が経費にできなくなります。

さらに注意したいのが、年2回など複数回に分けて賞与を支給する場合です。たとえば7月と12月にそれぞれ100万円ずつ支給すると届け出て、7月分は届出どおりに支給したものの、12月分を減額して支給した場合、12月分だけでなく、届出どおりに支給したはずの7月分も含めて、合計額が経費として認められなくなります。これは、事前確定届出給与が「1回ごと」ではなく、その役員の任期(職務執行期間)全体を1つの単位として判定されるためです。実際にこの点が裁判で争われた例もあり、「一部でも届出どおりでなければ、その期間の支給全体が届出どおりではなかったことになる」という考え方が示されています。

なお、業績悪化などやむを得ない事情による変更については、変更届出書を期限内に提出することで、変更後の金額で経費として認められる場合があります。金額を変えたくなった場合は、自己判断で支給額を調整する前に、必ず事前に相談してください。

賞与を取りやめたい場合は「支給日の前」に決める

資金繰りの都合などで、届け出た賞与の支給自体を取りやめたいこともあるかもしれません。この場合、取りやめる決定をするタイミングが、支給予定日の前か後かで、税務上の扱いが大きく変わります。

  • 支給予定日より前に、支給を中止する意思を明確にした場合:役員側に受け取る権利が発生していないため、所得税・法人税ともに課税関係は生じません
  • 支給予定日を過ぎてから支給を取りやめた場合:役員側の受取る権利はいったん確定しているため、原則として源泉徴収が必要になるほか、会社側でも債務免除益として利益に計上しなければならない可能性があります

つまり、「払えなくなったから、なかったことにする」というのは、支給日を過ぎてしまうと簡単には認められません。資金繰りの都合で支給を見送る可能性がある場合は、支給予定日より前に、早めに意思決定をしておくことが重要です。

源泉徴収を忘れずに

事前確定届出給与として役員賞与を支給する際も、通常の給与と同様に所得税の源泉徴収が必要です。届出どおりに支給していても、源泉徴収を怠ってしまうと、後日の税務調査で追徴課税や加算税の対象になることがあります。賞与の支給額が確定したら、源泉徴収税額の計算・納付もあわせてスケジュールに組み込んでおきましょう。

届出書はどこに保管しておくべきか

提出した事前確定届出給与に関する届出書(および変更届出書)の控えは、支給額・支給時期を裏付ける重要な証拠書類です。税務調査では、実際の支給額・支給日が届出内容と一致しているかが必ず確認されるため、届出書の控え、株主総会議事録、振込記録などをセットで保管しておくことをおすすめします。

まとめ:出す前の準備がすべて

  • 役員賞与は原則経費にならず、「事前確定届出給与」の届出をして初めて例外的に経費にできる
  • 大半の中小企業(同族会社)では、毎月報酬を受け取っている役員への賞与は届出が必須
  • 届出の期限は原則「決議から1か月以内」。決算後の株主総会のタイミングを逃さないよう注意する
  • 届出どおりに支払わないと、差額ではなく支給額の全額が経費にならない
  • 支給を取りやめる場合は、支給予定日より前に意思決定することが重要

役員賞与は、正しく手続きをすればしっかり節税に活用できる一方、手続きを誤ると想定外の税負担につながる、失敗の許されないテーマです。賞与の支給を検討し始めた段階で、一度専門家に相談することをおすすめします。次回は、役員報酬の金額そのものが高すぎると否認される「過大役員給与」について解説します。

執筆者紹介

代表

代表税理士 畑間 彬宏

畑間税理士事務所 代表

大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。

渋谷・新宿での会社設立・創業融資なら
畑間税理士事務所へお任せください

初回相談無料 / 土日祝対応可(要予約)

無料相談を予約する

【役員報酬解説2】定期同額給与とは?決め方と改定できるタイミングを解説

役員報酬はなぜ「毎月同額」でないといけないのか 渋谷区代々木の税理士、畑間です。 「今月は利益が出そうだから役員報酬を増やそう」「決算間際に利益が読めてきたので調整したい」——これができてしまうと、会社は利益が出そうなタイミングを見計らって役員報酬を動かし、法人税の負担を自由に調整できてしまいます。これを防ぐために設けられているのが「定期同額給与」というルールです。今回は、その基本的な考え方と、例...

あわせて読みたい

【役員報酬解説4】役員報酬が高すぎるとどうなる?過大役員給与の考え方

役員報酬は高ければ高いほど良いわけではない 渋谷区代々木の税理士、畑間です。 定期同額給与のルールを守り、毎月きちんと同額を支給していれば、それだけで役員報酬は全額経費になる——実はそうとは限りません。金額そのものが「不相当に高額」だと判断されると、その超える部分は経費として認められないのです。これを「過大役員給与」といいます。今回は、何をもって「高すぎる」と判断されるのか、その考え方と実務上の目...

あわせて読みたい

フリーランスの経費、どこまでOK?できる・できないの境界線

「これって経費になる?」フリーランスが知っておきたい経費の境界線 渋谷区代々木の税理士、畑間です。 確定申告の準備をしていると、「このスマホ代は経費にしていいのか」「家賃はどこまで認められるのか」など、経費の線引きに悩む場面が多いのではないでしょうか。今回は、フリーランス・個人事業主が経費にできるもの・できないものの境界線について、具体例を交えながら解説します。 経費として認められるための3つの原...

あわせて読みたい

まずは、あなたの事業への
「想い」を
お聞かせください。

初回のご相談は無料です。あなたの事業がこれからどこへ向かうのか、
そのためにどんなサポートが必要なのか、まずはお気軽にお話をお聞かせください。

無料相談を予約する

24時間365日受付中

お問い合わせ