【役員報酬解説6】役員退職金はいつ経費になる?支給時期と勇退の注意点
退職金は「いつ」経費にできる?勇退・世代交代のタイミングも解説
渋谷区代々木の税理士、畑間です。
前回は役員退職金の金額の決め方を解説しましたが、今回のテーマは「いつ」経費にできるかというタイミングの問題です。あわせて、完全に会社を離れるのではなく、会長職や非常勤取締役といった形で勇退する場合に退職金を支給できる「分掌変更」についても解説します。実はこの分掌変更、要件を形式的に満たしただけでは認められない、実務上もっとも判断が難しいテーマの一つです。

退職金はいつの事業年度の経費になるのか
役員退職金の経費にできるタイミングには、原則と例外があります。
- 原則:株主総会の決議などにより、退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度
- 例外:実際に支払った日の属する事業年度に、その支払った金額を経費として計上(損金経理)した場合は、支払った事業年度でもよい
ポイントは、例外の取り扱いはあくまで「実際に支払った」場合に限られるということです。「まだ支払っていないが、未払金として経費に計上しておく」という処理は認められません。資金繰りの都合で決議後すぐに支払えない場合は、実際に支払うタイミングまで経費計上を待つ、という選択肢も持てるということです。
なお、役員が在職中に亡くなり、死亡退職金を支給する場合は、相続税の対象となる財産(みなし相続財産)としての性質があるため、早期に支給したいというニーズが生じます。この場合、取締役会などで金額を内定させたうえで実際に支払い、その事業年度で経費として計上すれば、決議を待たずにその事業年度の経費にすることができます。
使用人から役員に昇格した人の退職金は、その時点で精算できることも
従業員から役員に昇格した人については、退任時に使用人期間分と役員期間分をまとめて退職金として支給する方法のほか、役員に昇格した時点で、それまでの使用人期間分の退職金を先に精算して支給する方法(打切支給)も認められています。ただし、その後に本当に退職する際の退職金の計算では、この精算済みの期間を勤続年数に含めないことが条件になるなど、細かい要件があります。制度の導入を検討する場合は、事前に確認しておくことをおすすめします。
完全に退任しなくても退職金を出せる「分掌変更」とは
経営者の中には、完全に会社を離れるのではなく、社長は退いても会長や非常勤取締役として関わり続けたい、というケースも多いのではないでしょうか。このように役職(分掌)が変わるだけで、会社を退職したわけではない場合でも、実質的に退職したのと同様の事情があると認められれば、退職金を支給することができます。これを「分掌変更による退職金」といいます。
実質的に退職したと同様の事情があるかどうかは、次の3つの要件で判断されます。
| 要件 | 内容 | 注意点 |
| ①勤務形態 | 常勤役員が非常勤役員になったこと | 代表権を持つ人や、実質的に経営の中心にいる人は対象外 |
| ②役職 | 取締役が監査役になったこと | 実質的に経営の中心にいる人や、一定以上の株式を持つオーナー株主は対象外 |
| ③給与 | 分掌変更後の給与が、概ね50%以上減少したこと | 形式的に減額しても、実態が伴わなければ認められない |
重要なのは、これらはあくまで形式的な目安であり、要件を数字の上で満たしていても、その後の実態として「引き続き経営の中心的な立場にある」と判断されれば、退職金としては認められないということです。
「形だけ交代」は認められない――実際の裁判例から
実際に、役員報酬を大幅に減額し、役職も代表取締役から相談役へと変更したにもかかわらず、退職金として認められなかった事例があります。その会社では、報酬こそ大きく減額されたものの、交代後も本人が毎日出社し、重要な稟議書に目を通して押印を続け、資金調達の場面でも金融機関と単独で交渉するなど、対外的にも「実権者」として認識され続けていました。裁判所は、こうした実態から「経営上主要な地位を占め続けていた」と判断し、退職金として認めませんでした。この場合、支給した金額は退職金ではなく賞与として扱われ、支給側は経費にできず、受け取る側も給与としての課税や源泉徴収漏れが生じるなど、二重・三重の不利益が生じてしまいます。
一方で、株式の大半を持つオーナー株主が監査役になり、以降は業務にも経営判断にも一切関与しなくなったケースでは、退職金として認められた事例もあります。裁判所は「株主として一定の影響力を持ちうるとしても、それはあくまで議決権を通じた間接的なものであり、役員としての実質的な関与とは別問題」という考え方を示しました。つまり、株を持ち続けていること自体が問題なのではなく、日々の経営判断や対外的な対応にどこまで実際に関わり続けているかが、判断の分かれ目になるということです。
勇退・世代交代を検討される際は、「報酬を下げて役職を変えればよい」という表面的な対応ではなく、実際にどこまで経営から手を引くのかを、後継者との間で具体的にすり合わせておくことが何より重要です。
非常勤取締役・監査役として残る場合の報酬設計
分掌変更後も非常勤取締役や監査役として会社に残る場合、その後の報酬をどう設定するかも重要な検討事項です。前回解説したとおり、役員報酬は原則として毎月同額でなければ経費にできないため、分掌変更後の新しい報酬額についても、変更後の期の中で通常改定や臨時改定事由に該当するタイミングで正しく決定する必要があります。退職金の支給と役員報酬の改定は別々の手続きですが、勇退のタイミングでは両方が同時に発生することが多いため、あわせて整理しておくことをおすすめします。
分掌変更の実態をどう記録しておくか
分掌変更による退職金が認められるかどうかは、後から実態を証明できるかどうかが大きく影響します。取締役会議事録や株主総会議事録に加えて、名刺・組織図・稟議書の決裁権限の変更、対外的な肩書の変更などを、分掌変更のタイミングで整理しておくことをおすすめします。数年後の税務調査で実態を問われた際に、当時の状況を裏付ける資料が残っているかどうかが、退職金として認められるかの分かれ目になることがあります。

まとめ:分掌変更は「実態」がすべて
- 役員退職金は、原則として株主総会などで金額が確定した事業年度の経費になる(支払った事業年度でもよい例外あり、ただし未払金計上は不可)
- 死亡退職金は、内定・支払い・損金経理により早期に経費計上できる場合がある
- 完全に退任しなくても、常勤→非常勤、取締役→監査役、給与の大幅減額(概ね50%以上)といった実質的な変化があれば退職金を支給できる(分掌変更)
- ただし要件を形式的に満たしても、実態として経営に関与し続けていれば退職金とは認められない
- 認められない場合、支給額は賞与として扱われ、経費にならないうえ受け取る側の税負担も増える
今回で「役員報酬」シリーズは、基本的な考え方から、定期同額給与、役員賞与、過大役員給与、退職金の決め方・支給タイミングまで一通り解説してきました。役員報酬・退職金の設計は、日々の税務判断の中でも特に影響が大きく、後から修正しにくいテーマです。増額や勇退のタイミングが近づいてきたら、実行前に一度専門家にご相談ください。
執筆者紹介

代表税理士 畑間 彬宏
畑間税理士事務所 代表
大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。





