【役員報酬解説5】役員退職金の決め方|功績倍率法の計算方法を解説

役員退職金はどう決める?「功績倍率法」の考え方と計算方法

渋谷区代々木の税理士、畑間です。

役員退職金は、退職所得として税制上優遇されており、経営者にとって有効な資産形成の手段になり得ます。ただし、役員報酬と同じように、金額が「不相当に高額」と判断されると、その超える部分は経費として認められません。今回は、実務でよく使われる退職金額の計算方法「功績倍率法」の考え方と、決める際の注意点を解説します。

役員退職金にも「不相当に高額」のルールがある

役員退職金の金額が妥当かどうかは、次のような事情を総合的に見て判断されます。

  • その役員が会社の業務に従事していた期間(勤続年数)
  • 退職の事情(病気・死亡・経営責任など)
  • 同業種・同規模の会社における役員退職金の支給状況

役員報酬と同様、法令に「いくらまでなら大丈夫」という一律の金額基準は定められていません。そのため実務では、次に説明する計算方法を使って、金額の妥当性を検証するのが一般的です。

実務でよく使われる「功績倍率法」

役員退職金の金額を決める方法として、実務で広く使われているのが「功績倍率法」と「1年当たり平均額法」の2つです。

方法 計算式 主に使う場面
功績倍率法 最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率 最終報酬月額が実態を反映している場合(もっとも一般的)
1年当たり平均額法 同業・類似規模法人の1年当たり平均支給額 × 勤続年数 最終報酬月額が極端に低い・実態を反映していない場合

計算式:最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

功績倍率法は、退職直前の役員報酬(最終報酬月額)に、勤続年数と「功績倍率」という係数を掛け合わせて計算する方法です。たとえば、最終報酬月額100万円、勤続年数20年、功績倍率2.5倍とすると、退職金の目安は次のようになります。

100万円 × 20年 × 2.5 = 5,000万円

この「功績倍率」は、その役員が会社にどれだけ貢献してきたか、会社の退職金支払い能力なども踏まえて総合的に評価される係数で、法令や通達に「代表取締役は何倍」といった一律の数値は定められていません。実際の裁判例を見ても、功績倍率は1倍台から5倍近くまで、事案によって大きな幅があります。「代表取締役だから3倍」というような単純な当てはめはできない、という点は理解しておいてください。実際の金額を検討する際は、同業種・同規模の会社の支給実績などを踏まえて、専門家とともに算定することをおすすめします。

最終報酬月額が低すぎると「1年当たり平均額法」に切り替えられることも

功績倍率法は、最終報酬月額がその役員の功績を適切に反映していることが前提となります。そのため、たとえば退職直前だけ極端に報酬を低く抑えていたなど、最終報酬月額が実態を反映していないと判断される場合には、代わりに「1年当たり平均額法」が使われることがあります。

この方法は、同業種・類似規模の会社における役員退職金の「1年当たりの平均支給額」に、その役員の勤続年数を掛けて計算します。功績倍率法よりも会社側でコントロールしにくい計算方法であるため、税務調査などで功績倍率法による金額が否認された場合の代替的な算定方法として使われることが多くなっています。

退職直前に慌てて報酬を上げるのは危険

功績倍率法は最終報酬月額を基準にするため、「退職直前に報酬を大きく引き上げれば、退職金も増やせるのでは」と考えたくなるかもしれません。しかし、これは税務上かなりリスクの高い手法です。

実際にあった事例では、退職直前になって突然、役員報酬を大幅に引き上げ、その引き上げ後の金額を基準に高額な退職金を計算して支給したところ、税務調査で「合理的な理由のない引き上げであり、専ら退職金の算定根拠を整える目的だった」と判断されました。結果として、功績倍率法ではなく1年当たり平均額法によって金額が再計算され、当初想定していた金額から大幅に減額されています。

この事例が示す教訓は2つあります。1つは、退職直前になって理由もなく報酬を引き上げるのは危険だということ。もう1つは、逆に普段の役員報酬を必要以上に低く抑えすぎると、将来受け取れる退職金の水準そのものも下がってしまう、ということです。将来まとまった退職金を受け取りたいのであれば、退職の直前になって慌てるのではなく、日頃の役員報酬の水準から計画的に検討しておく必要があります。

功績倍率が低く算定されやすいケース

功績倍率は役員の在任期間中の会社への貢献度を総合的に評価するものですが、実務上、非常勤役員や、実質的な経営への関与が乏しかった役員については、常勤の代表者と比べて低い倍率で算定される傾向があります。名目上は取締役であっても、実態として経営判断にほとんど関与していなかった場合、退職金の算定でも「実質基準」と同様に実態が重視される点は理解しておく必要があります。

退職金の原資はどう準備するか

役員退職金は一度に多額の資金が必要になるため、あらかじめ準備しておくことが重要です。代表的な方法として、生命保険の活用や、中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)とは別に、役員退職慰労引当金を計上する方法などがあります。ただし、税務上、引当金の計上そのものは損金として認められないため、資金準備の手段と、経費(損金)算入のタイミングは分けて考える必要があります。実際に退職金を準備する際は、資金計画とあわせて専門家に相談することをおすすめします。

退職金にかかる税金の優遇

退職金は、給与所得と比べて税務上優遇された「退職所得」として扱われます。退職所得の金額は、退職金の額から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引いた残額の2分の1に、税率を乗じて計算されるため、同じ金額を給与として受け取るよりも、手取り額が大きくなるのが一般的です。この優遇があるからこそ、金額の決め方や支給のタイミングについて税務上厳格なルールが設けられている、という背景も理解しておくとよいでしょう。

勤続年数の数え方にも注意

功績倍率法・1年当たり平均額法のいずれも、計算式に「勤続年数」が含まれています。この勤続年数は、原則として役員に就任した日から退職日までの期間で計算しますが、端数が生じた場合の切り上げ・切り捨ての扱いや、休職期間の取り扱いなど、細かい点で誤りが生じやすい部分でもあります。特に長期間在任している役員ほど、勤続年数のわずかな違いが退職金額全体に大きく影響するため、計算の前提となる就任日・退任日を正確に確認しておくことが重要です。

まとめ:退職金は計算方法と普段の報酬水準がセットで重要

  • 役員退職金も、勤続年数・退職の事情・同業類似法人の状況などから「不相当に高額」でないかが判断される
  • 実務では「功績倍率法(最終報酬月額×勤続年数×功績倍率)」が広く使われる
  • 功績倍率に一律の目安はなく、事案によって1倍台〜5倍近くまで幅がある
  • 最終報酬月額が実態を反映していない場合は、「1年当たり平均額法」に切り替えられることがある
  • 退職直前の不自然な報酬引き上げは否認されるリスクが高く、普段の報酬水準から計画しておくことが重要

役員退職金は、正しく設計すれば経営者にとって有効な資産形成の手段になりますが、金額の決め方を誤ると想定していた節税効果が得られないこともあります。将来の勇退や事業承継を見据えて、早めに専門家に相談しておくことをおすすめします。次回は、退職金をいつのタイミングで経費にできるか、そして経営者の勇退・世代交代の際に特に注意したいポイントについて解説します。

執筆者紹介

代表

代表税理士 畑間 彬宏

畑間税理士事務所 代表

大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。

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