小規模企業共済・経営セーフティ共済・iDeCoで節税しながら備える|経営者が使える3つの制度を解説

共済・iDeCoを使い分ける|経営者のための節税と将来資金の準備

渋谷区代々木の税理士、畑間です。

節税の相談を受けていると、「小規模企業共済とiDeCo、どちらに入ればいいですか」「経営セーフティ共済は節税になると聞いたけど本当ですか」というご質問をよくいただきます。これら3つの制度は名前が似ているように見えて、実は「誰の」「どの税金の」節税になるのかがまったく異なります。小規模企業共済とiDeCoは経営者個人の所得税・住民税を軽減する制度である一方、経営セーフティ共済は法人(または個人事業)の税負担を先送りする制度です。この違いを理解しないまま加入すると、期待していた節税効果が得られなかったり、思わぬ場面で資金が引き出せず困ったりすることがあります。今回は3つの制度をそれぞれ整理したうえで、節税額の目安、2026年12月に予定されているiDeCoの改正、受け取り方の注意点まで解説します。

まず全体像:3つの制度は「誰の」節税になるのか

最初に、3つの制度の位置づけを一覧で確認しておきましょう。

制度 誰の・何の節税か 掛金の上限(年換算目安) 税制上の位置づけ
小規模企業共済 経営者・個人事業主個人の所得控除 84万円(月7万円) 所得控除(法人の掛金ではない)
経営セーフティ共済 法人(または個人事業主)の掛金・必要経費 240万円(月20万円、総額800万円まで) 損金算入(受取時に益金算入=繰延べ)
iDeCo 経営者個人の所得控除 現行27.6万円~81.6万円(加入区分による) 所得控除(小規模企業共済とは別枠)

表のとおり、小規模企業共済とiDeCoは経営者個人の所得控除であり、法人の損金にはなりません。一方、経営セーフティ共済は法人(個人事業主であれば事業)の損金・必要経費になる制度です。この3つは対象がそれぞれ独立しているため、経営者が個人で小規模企業共済とiDeCoの両方に加入しつつ、経営する法人が別途、経営セーフティ共済に加入するという組み合わせが可能です。

小規模企業共済:経営者・個人事業主自身の「退職金」を作る

小規模企業共済は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営する、個人事業主や小規模企業の役員のための積立制度です。会社員の退職金に相当するものを、経営者自身があらかじめ積み立てておく仕組みだとイメージするとわかりやすいでしょう。

加入資格

加入できるのは、常時使用する従業員数が一定以下の個人事業主・会社役員です。具体的には、建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)などは従業員20人以下、卸売業・小売業やそれ以外のサービス業は従業員5人以下が目安です。個人事業主の場合は、事業に従事する共同経営者も1事業者につき2人まで加入できます。

掛金と税制上のメリット

掛金は月額1,000円から70,000円までの範囲で、500円刻みで自由に設定・増減できます。ここで最も重要なのが、掛金の全額が加入者個人の「小規模企業共済等掛金控除」として所得から差し引かれる点です。法人の損金になるわけではなく、あくまで経営者個人の確定申告(会社役員であれば年末調整)で控除する所得控除であることを押さえておいてください。仮に上限の月7万円(年84万円)を積み立て、所得税・住民税をあわせた実効税率を33%と仮定すると、年間およそ28万円の税負担軽減になる計算です。

受け取り方と出口の注意点

共済金を受け取る際、一括で受け取れば退職所得(退職所得控除の対象)、分割(年金形式)で受け取れば雑所得(公的年金等控除の対象)として扱われ、いずれも給与や事業所得よりも税負担が軽くなるよう配慮された所得区分です。ただし、廃業や死亡以外の理由で任意に解約する場合は、納付月数に応じた支給率で解約手当金が計算され、納付月数が240か月(20年)未満だと掛金合計額を下回る、いわゆる元本割れが生じます。さらに、納付月数が12か月に満たない場合は解約手当金自体が支給されず、全額が掛け捨てになる点にも注意が必要です。また、令和8年1月1日から、確定拠出年金(iDeCo・企業型DC)の一時金と会社の退職金を受け取る際の退職所得控除の調整期間が、従来の5年から10年に延長されました。小規模企業共済の共済金も退職所得として扱われるため、将来、会社からの役員退職金とあわせて受け取る予定がある場合は、受け取る順序やタイミングによって控除額の計算が変わりうる点を踏まえ、事前に専門家へ相談することをおすすめします。

経営セーフティ共済:取引先の倒産に備えながら法人の利益を繰り延べる

経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)は、取引先が倒産して売掛金の回収が困難になった際に、無担保・無保証人で共済金の貸付けを受けられる制度です。小規模企業共済・iDeCoとは異なり、法人(または個人事業)そのものを対象とした制度である点が大きな違いです。

制度の目的・加入資格

加入できるのは、継続して1年以上事業を行っている中小企業者です。業種ごとに資本金または従業員数の基準が定められており、たとえば製造業・建設業・運輸業などは資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業は資本金1億円以下または従業員100人以下、小売業やサービス業は資本金5,000万円以下または従業員100人以下(小売業は50人以下)が目安です。

掛金と損金算入

掛金は月額5,000円から200,000円までの範囲で自由に選べ、掛金総額の累計上限は800万円です。掛金は法人であれば損金、個人事業主であれば必要経費に算入できます。法人が損金算入するためには、確定申告書に別表10(7)「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」と適用額明細書の添付が必要になるため、経理担当者や顧問税理士と連携して漏れなく手続きすることが大切です。仮に上限の月20万円(年240万円)を積み立て、法人の実効税率を33%と仮定すると、年間およそ79万円の法人税等の負担軽減になる計算です。

2024年10月改正:解約後の再加入は要注意

以前は、業績が良い期に解約して解約手当金を受け取り、その直後に再加入して新たに掛金の損金算入を始めるという使い方が一部で行われていました。しかし2024年10月1日以降に解約して再加入した場合、解約日から2年を経過する日までの間に支払う掛金は、損金(個人事業主は必要経費)に算入できないというルールに改正されました。この改正は2026年9月時点でも継続して有効であり、解約と再加入を短期間で繰り返す節税手法は事実上封じられています。

解約手当金は「繰延べ」の出口(益金算入)

経営セーフティ共済で見落とされがちなのが、掛金拠出時に損金算入できても、非課税になるわけではないという点です。解約手当金を受け取った際には、法人であれば益金(雑収入)、個人事業主であれば事業所得として課税対象になります。つまりこの制度は、掛金を支払った期の税負担を将来に先送りする「課税の繰延べ」の仕組みであり、受け取るタイミングで大きな利益や役員退職金の支給など、あえて損金を増やしたい事情と重ねて活用するのが基本的な使い方です。なお、任意解約の場合、納付月数が40か月以上であれば掛金全額(100%)が返戻されますが、12か月未満は掛け捨て、12か月から39か月までは掛金総額の80%以上100%未満の返戻にとどまり元本割れとなる点にも注意してください。

iDeCo:経営者個人の資産形成をさらに上乗せする

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、加入者自身が掛金を拠出し、自ら運用しながら老後資金を準備する制度です。小規模企業共済と同じく経営者個人の所得控除になりますが、限度額は小規模企業共済とは別枠で計算されるため、両方をフルに活用することができます。

拠出限度額(現行)と2026年12月からの拡充

拠出限度額は加入者の区分によって異なります。個人事業主等(第1号被保険者、国民年金基金との合算枠)は現行で月額68,000円、企業年金のない会社の役員・会社員(第2号被保険者)は月額23,000円が上限です。厚生労働省が公表した内容によると、令和8年(2026年)12月から、この上限が大きく引き上げられる見込みです。

加入区分 現行の上限(月額) 2026年12月以降の上限(月額)
第1号被保険者(個人事業主等) 68,000円 75,000円
第2号被保険者・企業年金なし(会社役員等) 23,000円 62,000円
第2号被保険者・企業年金あり 20,000円前後(制度により調整) 62,000円から他制度の掛金を控除した額

特に、企業年金のない会社役員の上限が月23,000円から62,000円へと大幅に拡充される点は影響が大きく、法人化している経営者にとって見逃せない改正です。あわせて、加入可能年齢もこれまでの65歳未満から70歳未満に引き上げられる予定です。

60歳まで引き出せない点に注意

iDeCoは掛金の全額が所得控除になる強力な節税効果がある一方、原則として60歳になるまで資産を引き出すことができません。事業資金が急に必要になった場合でも取り崩せないため、小規模企業共済(任意解約が可能)や手元の預貯金とのバランスを考えながら、無理のない金額で拠出額を設定することが大切です。受け取り方は、一時金であれば退職所得、年金形式であれば雑所得として課税され、いずれも小規模企業共済と同様に給与所得より税負担が軽くなるよう配慮されています。

節税額の目安(簡易シミュレーション)

法人化している一人社長を例に、3つの制度をすべて上限まで活用した場合の効果を確認してみます。所得税・住民税・法人税等の実効税率はいずれも概算で33%とします。

  • 小規模企業共済(個人):月7万円×12か月=年84万円を所得控除 → 個人の税負担がおよそ28万円軽減
  • iDeCo(個人・現行の企業年金なし区分):月23,000円×12か月=年27.6万円を所得控除 → 個人の税負担がおよそ9万円軽減(2026年12月の改正後、上限の月62,000円まで拠出すれば年74.4万円の所得控除となり、およそ25万円の軽減に拡大)
  • 経営セーフティ共済(法人):月20万円×12か月=年240万円を損金算入 → 法人の税負担がおよそ79万円軽減(ただし将来の解約時に益金算入されるため、あくまで課税の繰延べ)

個人の所得控除である小規模企業共済とiDeCoをあわせると、現行の上限でも年間およそ37万円、2026年12月の改正後は年間およそ53万円の個人の税負担軽減が見込めます。これに加えて、法人側で経営セーフティ共済を活用すれば、資金繰りの観点から当期の法人税負担をおよそ79万円抑えることもできます。ただし、これらはあくまで掛金を上限まで拠出できることを前提にした簡易的な試算であり、実際の税負担軽減額は所得水準や税率区分によって変わりますので、目安としてご覧ください。

3つの制度は併用できる:組み合わせ方の考え方

小規模企業共済・iDeCo・経営セーフティ共済は、それぞれ次のような役割分担で組み合わせるのがおすすめです。小規模企業共済は、将来の廃業・引退時に受け取る自分自身の退職金として、無理のない金額で長期的に積み立てる位置づけが基本です。iDeCoは、小規模企業共済とは別枠の所得控除を活用しながら、老後の年金を自分で運用して増やす位置づけになります。どちらも60歳や共済金の受給要件を満たすまで引き出しにくいお金であるため、事業資金とは切り離して考える必要があります。一方、経営セーフティ共済は、法人の資金繰りに余裕がある期に多めに積み立てておき、将来大きな利益が出る見込みの期や、役員退職金の支給を予定している期に解約して益金と相殺する、という使い方が効果的です。

導入する際の注意点

3つの制度を検討する際は、次の点に注意してください。

  • 小規模企業共済・iDeCoは、いずれも長期間資金を拘束される制度であるため、当面の事業資金・生活資金を圧迫しない範囲の金額から始める
  • 小規模企業共済を20年未満で任意解約すると元本割れするため、加入前に将来の廃業・退任時期をある程度見据えておく
  • 経営セーフティ共済は、2024年10月以降、解約後2年以内の再加入分の掛金が損金不算入になるため、安易な解約・再加入は避ける
  • 経営セーフティ共済の解約手当金は益金算入されるため、解約するタイミングは大きな損金(役員退職金の支給や設備投資など)が発生する期にあわせて計画する
  • iDeCo・企業型DCの一時金と会社の退職金をどちらも受け取る予定がある場合、令和8年1月からの「10年ルール」により控除額の計算が変わるため、受け取り時期の計画は早めに専門家へ相談する

まとめ:3つの制度を「誰の・どの税金の節税か」で使い分ける

  • 小規模企業共済とiDeCoは経営者個人の所得控除、経営セーフティ共済は法人(または個人事業)の損金・必要経費であり、対象がそれぞれ異なるため併用できる
  • 小規模企業共済は掛金月1,000円〜70,000円で全額所得控除、20年未満の任意解約は元本割れする点に注意
  • 経営セーフティ共済は掛金月5,000円〜200,000円・総額800万円まで損金算入できるが、受取時に益金算入される「課税の繰延べ」であり、2024年10月以降は解約後2年以内の再加入分が損金不算入になる
  • iDeCoは小規模企業共済とは別枠の所得控除で、2026年12月から拠出限度額が大きく引き上げられる見込み(企業年金のない会社役員は月23,000円→62,000円)。ただし60歳まで引き出せない点に注意
  • 簡易シミュレーションでは、3制度を上限まで活用した場合、個人の税負担が年間約37万円(2026年12月の改正後は約53万円)、法人の税負担が年間約79万円(繰延べ)軽減される計算になる(あくまで簡易的な目安)

どの制度を、どの程度の金額で、どのタイミングで活用するかは、事業の資金繰りや将来の退職金の準備状況によって最適な組み合わせが変わります。実際に加入・増額を検討する際は、一度畑間税理士事務所にご相談ください。

執筆者紹介

代表

代表税理士 畑間 彬宏

畑間税理士事務所 代表

大手税理士法人で10年間、上場・外資系企業の税務マネージャーとして従事。現在は渋谷・新宿を拠点に、スタートアップやフリーランスの「挑戦」を支援。「事業の成功をデザインする」を掲げ、会社設立から創業融資、クラウド会計導入まで、代表本人が直接伴走するスタイルを貫く。

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